夏の夜の出来事

今年の半分が終わった。梅雨が明けるとまた酷暑がやって来るが、今になって昔の感覚が戻ったというのか、ちょっと不思議な体験をした。


・・夕暮れのT峠・・


仕事でよく行くA市がある。往復で二時間かかるのだが、途中には未舗装で車がやっと二台通れるか否かの細いT峠があり、この道を使うと凡そ30分の短縮になる。頂上には車が三台ほど置ける空き地があって、150mほど歩いて降ると人知れず滝が流れている。今まで何度か撮影しているが、BlogにUpできるものが撮れず仕舞いだった。


先日の夕刻、急々にA市に行く用事ができ、暗い時間帯はならば避けたいのだがそのT峠を通ることにした。夏至とはいえ18:30頃の山道は薄暗く、間も無く峠頂上に差し掛かろうとしたとき先程の滝から着物姿の女性が上がってきた。
坂道を息を切らして登ってきたのだろう、髪も着衣も乱れて顔面は蒼白、目の周りは黒く窪んだような表情だった。もしかして何等かの撮影かと思いきや周囲に車や人の気配はなく、何より彼女の前を通り過ぎようとした際の敵意に満ちた眼差しに、この世のものではないことだと気付く


通り過ぎた直後にルームミラーで後ろを見ると、女性が悔しげに手招きをしている。振り切るようにアクセルを踏んで加速しようとするが、下り坂なのに何故か自然と車が動き出すようなスピードにしかならず、無我夢中で街灯りを目指した。


後になって思い出したのだが、昔々T峠で若い女性が乱暴され滝に放り込まれるという事件があった。それから時折りその場所で自殺する人がいたようだが、何れも遺書も自殺する理由もない人達ばかりだったらしい。
滝の撮影に通っていた頃そのような出来事は知らなかった。併しながらいつも誰かに見られているような気配があり、撮影に集中出来なかったというか、長居することを拒んでいるかのような空気感があった。上手く撮れなかった理由はそんな原因があったのかと妙に納得し、今後T峠には近付かないことにした‥多分。


次は随分昔のことになるが、今の場所に引っ越す前の夏の出来事。


・・付いてきた・・


福島県人なら分かると思うが、明治から昭和にかけての著名な詩人・彫刻家の奥さんがいる。近くの川には彼女の名前を冠したC大橋がある。仕事を終え深夜にその橋を通るようになったのだが、実は帰路に着く頃から寒気を覚え鳥肌が立つ嫌な感覚があった。


橋の近くまで来ると橋中央に人影が見えた。通り過ぎようとしてふと気付けば靴が揃えてあり、何よりその人は橋に立っているのではなく欄干の外側、つまりずっと空間に浮いた状態だった。水色のブラウスを着たショートヘアーの女性が後ろを向いたままずっとそこに立っていた。


これはまずいと急加速し家に着く。車から降り何気に道路の向かい側にある電話BOXを見ると水色のブラウスを着たショートヘアーの女性が後ろ姿で立っていた。私は「あっ」っと声を上げた記憶があるが、同時に女性がこちらを振り向き何かを呟く。
その口の動きを見て見ぬ振りとでもいうのか、無視してその場を離れ、急いで部屋に入り照明を煌々と点け朝まで起きていようとしたのだが、気付けば何事もなく寝てしまった。


因みにその橋は今でも夜を含め時折り通行するが、話しの分かる人に付(憑)いて行ったのか、もう何も見ることは無くなった。


もしかして夏は思いも寄らぬことが起きる季節かも知れないが、どちらかといえばあっちの世界じゃなく、こっちの世界で艶っぽい出来事を望む w