黄昏を穿つ灯火・・・夜のJヴィレッジ駅にて

M.Hermitage

04日(日)、久しぶりに好天の週末となり、海へ向かう。何度か訪れてはいるものの、撮影で最後に訪れたのは三月で、既に五か月前になる。その間、幾度となく行こうと思ったが、その度に天候が悪く、断念して只見線の撮影へと切り替えていた。

日の出を相馬市尾浜字松川のカゲスカ海岸で撮る予定だった。と云うのも、三月と十月初旬には、鵜ノ尾埼灯台の脇から太陽が昇るからだ。併しながらこの日は、上空を厚い雲が覆う空模様となり、条件は芳しいものではなかった。


上画像は日の出の凡そ三十分前に撮影したものだが、水平線上には肉眼では捉えられない赤みを帯びた雲間が写っていた。これを活かせるかどうかは分からない。それでも、まずは日の出を待つことにした。


「Dawn Purple」~ F10・SS8・ISO120・C-PL+ND100 ~


当日は日の出の時刻と干潮が重なっていた。更には先述したように厚い雲が空を覆い、条件としては決して恵まれたものではなかった。それでも昇り始めた太陽は雲の隙間から光を放ち、海岸と空を赤紫色に染め上げていった。


日の出の時間ともなれば周囲は十分に明るくなっているが、この場面では波の表情を穏やかにまとめたかったため、ND100を使用してSSを落とした。引き波と寄せ波が重なり合うことで、砂浜には光の帯が静かに伸びている。


また今回は太陽に向かう構図ながらC-PLも併用した。一般的に順光方向ではその効果を期待できないが、限られた光量の中で海面の反射を調整した結果、照り返しを強める側で用いることになった。その反射が砂浜へ赤い光を引き込み、空の色と呼応するような表情を見せる。


この画像は撮影後に海岸の様子を記録したものだ。八月中旬に掲載した記事「朝の海岸にひとつの影」で見られたウミガメの死骸は、すっかり跡形を消していた。寄せては返す波と風に運ばれる砂によって、あの日の痕跡は海岸の風景の中へ静かに溶け込んでしまったようだ。


相馬市では他にも朝の撮影地を考えていたが、雲はますます厚さを増し、そのためロケハンをしながら海岸沿いを南下し、いわき市へ向かうことにした。その途中、浪江漁港の北側にある、これまで定期的に撮ってきた荒涼とした一角へ立ち寄った。併しかつて立ち並んでいた枯れ木は伐採され、水溜まりの絶えなかった道筋も舗装へと変わっていた。以前の面影は薄れつつあり、その変化の中に復興の歩みを見たような気がした。

いわき方面の空模様も変わらず、厚い雲が空を覆っていた。まずは双葉郡楢葉町山田岡字美シ森の県道391号線に架かる橋上から常磐線を撮ってみる。左手の木立に隠れているのがJヴィレッジ駅で、奥に見えるのは広野火力発電所だ。


この場所での撮影も久しぶりとなったため、駅へ立ち寄って時刻を確認したのだが、朝夕の列車については発着時刻に多少の変更があったようだ。沿線の風景は大きく変わらない一方で、時刻表には日々の営みの変化が静かに刻まれているように感じられた。


「無人駅秋の潮風先着す」~ F10・SS1/400・ISO320 ~


車両はJヴィレッジ駅07時38分発車の下り667M。この場所からの撮影では右側の樹木が視界を遮るため、列車全体を収めることができない。また、上り列車は構内施設の影響で車両下部が隠れてしまうことから、いつも下り便を撮っている。


時刻としては既に太陽も高く昇っている頃だが、この日は厚い雲に覆われ、その姿を確認することはできなかった。それでも雲は朝の光を受けて淡く染まり、灰色一色ではない独特の空を形作っていた。橋の上を吹き抜ける風は思いのほか冷たく、無人駅へ到着する列車より先に、秋だけがこの沿線へ辿り着いていたようだった。


朝の撮影が終わり、夕刻までの長い時間をどう過ごすかがいつもの難題である。その時間を利用してロケハンを行い、撮影地を決めるのだが、繰り返すように、この日の空模様で夕焼けは期待できそうになかった。


そうなれば船舶の光跡や工場夜景を撮る選択肢もある。実は前日に孫娘の通う幼稚園の運動会があり、その疲れがどうにも抜けなかった。撮影への意欲も今ひとつ湧かず、多くの時間を海沿いに停めた車内で、うとうとしながら過ごしていた。


やがて潮風が更に冷たさを帯び始める頃、空を見上げても相変わらずの曇天模様で、空気も霞んでいた。一枚を撮るのに時間を要する光跡や工場夜景に向き合う気力はなく、足は自然と再びJヴィレッジ駅へ向いていた。

今度は駅構内での撮影となる。所在地は双葉郡楢葉町大字山田岡字下岩沢。ホームと駅舎の高低差は約20メートルあり、エレベーターと階段で連絡している。通常は無人駅のため窓口のシャッターは閉まっているが、Jヴィレッジでイベントが開催される際などには営業する。また、インターホンを利用して案内係との常時通話は可能。


ホームを見下ろせるポイントは二ヶ所ある。上画像はエレベーター乗降口脇からの眺め。立ち位置には鉄柵が設けられており、柵の隙間からレンズを通して撮影するため、大口径レンズには不向きだ。下画像は階段からの眺めで、撮影位置は丸印で示した踊り場となる。


「黄昏を穿つ灯火 #1」~ F8・SS1/50・ISO800 ~


「黄昏を穿つ灯火 #2」~ F10・SS3・ISO400 ~


車両は#1が17:16発上り692M、#2が18:20発上り684M。#1ではJヴィレッジ関係者や利用者と思われる乗客が多く、横構図でその様子を収めてみた。まだ周囲に明るさが残る時間帯でもあり、画面内の情報を整理しつつ、その場の雰囲気を表現するためモノクロを選択した。次の17:44発下り693Mについては、先頭車両が右下に隠れてしまうため撮らなかった。つまり停車中の車両を撮る場合は、上り便限定にした方が良さそうだ。


#2はすっかり日が落ちた頃の撮影で、乗客の姿は疎らだった。私自身は暗くなってからの景観の方が好みであり、線路沿いの木々が落葉した季節には、更に佳い光景になると思う。停車時間は凡そ15秒あり、SS3秒でも数枚撮影する余裕があった。


当然ながらE531系の発着は静かで滑らかだ。駅構内には列車接近や発車を知らせるアナウンスが流れ、日頃只見線を撮っている身からすると、何処か近未来的な世界を眺めているような感覚になり、高所から見下ろすホームの灯りは、山間の闇の中でひときわ鮮やかに浮かび上がっていた。


さて数ヶ月ぶりの海での撮影となったのだが、空模様や身体の都合もあるとは云え、結局のところ鉄道に引き寄せられてしまうあたりは、もはや性分なのかも知れない。それでも夕暮れから夜へ移ろう駅の灯りや、海に近い土地ならではの空気に触れられたのは良かったと思う。目的としていた海の風景は次の機会へ持ち越しとなったものの、撮影地を歩きながら過ごした時間そのものは十分に楽しめた一日だった。


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