只見線、風音の揺らぐ水面

M.Hermitage

23日(土)、週明けから暑い日が続いたが、週の後半は雨が続き気温もぐっと下がった。使い始めた扇風機を隅に追いやり、再び電気ストーブを引っ張り出すほどで天候は安定しない。今回の奥会津紀行だが、雨こそ上がったものの風は冷たく、朝は身震いするほど寒かった。数日続いた雨の影響で只見川は濁り、橋梁と川面を絡めた撮影は見送ることにした。

会津川口駅に夜間滞泊する車両を確認し、始発便は大沼郡金山町大字中川字下田面の中川集落で撮影することにした。本来ならもっと左側に立ちたいのだが、その辺りの田んぼには水が入っていなかった。撮影準備を始めると山霧は流れ、空が良き表情へと変わったのだが‥。


静かで冷ややかな朝」~ F10・SS1/250・ISO320 ~


車両は05:37頃通過の上り422D。列車が近付く頃になると再び山霧が流れ込み、空は重く沈んだ色へと変わった。それに伴い景観もくすんだような調子になり、普段なら数分で済む補正も、この画像に関しては少し真面目に取り組んでみたものの、どうにも上手く行かない。


所で始発便の撮影にこの地を選んだ理由だが、キハ110の首都圏色とデフォルトカラーの二連車両が、このクラシカルな集落の佇まいに合うと判断したからだ。


続いて二便目は、先週と同様に大沼郡金山町大字中川字荻付の会津中川駅裏手からの撮影とした。先週は駅に着く前の車両を捉えたが、今回は発車して間もない姿を捉える。先週は静かな景観だったものの、この日は早くから草刈り機の音が近く遠くに聞こえてきた。


あさざの刻」~ F10・SS1/500・ISO125 ~


車両は07:12頃通過の上り424D。先週と同様に縦構図とした。“あさざ”とは朝食前に行う仕事の意で、仏教用語の朝のお勤め“朝座”が語源と云われる。先程の草刈りの他、見え辛いが画像下部には一輪車を引く農夫の姿もある。


そして、こんな何気ない奥会津の風景を眺めていると、先週も書いた通り時間の流れが止まったような感覚に陥り、ふと次の予定を忘れてしまう。


次は大沼郡金山町大字横田字山根へ向かい、田んぼ越しに第七只見川橋梁を望む。五月晴れの好天ながら風が強く、田んぼの水面は波立っていた。先週‥いや、此処の所ずっと風に悩まされ、写り込みを撮れずにいるのだが、この日もまた風に悩まされることになる。


薫風のゆくえ」~ F10・SS1/400・ISO125 ~


車両は08:40頃通過の下り423D。この便は単行で構図的にも無理がなく、むしろ単行の方がこの景観には適っているのかも知れない。立ち位置の右後方では農家の方々が共同で田植えを進めており、その様子や田植え機の稼働音が、この場の空気にしっくりと馴染んでいた。


それにしても風が冷たく、この時間になっても厚着のままだ。本来なら梅雨入り前のこの季節は穏やかで清々しい筈だが、タイトルのように若葉や新緑の香りを運ぶ、爽やかな南風が吹くことをずっと待っている。


午後からは会津平にて撮影を行う。まず大沼郡会津美里町雀林字番常免の雀林踏切周辺で撮る予定だったが、時折り吹く突風に三脚が飛ばされそうになるなど場所を移動する。


移動先は大沼郡会津美里町字寺崎一ツ堂。昨年までは菜の花とのコラボを撮っていた場所になる。上画像は13:27頃通過の下り427D、下画像は13:54頃通過の上り428D。背景の飯豊山との兼ね合いなどを考えると、此処では望遠で撮った方が良いのかも知れず、またひとつ経験を積むことができた。

暫く列車の通過はなく、大沼郡会津美里町米田字米沢の桧ノ目踏切周辺で休むことにした。少しずつ雲が現れ、飯豊山は姿を隠しつつある。そんな空模様は、収まる気配のない風と相俟って、独特の色合いの景観を作り出していた。ふと気付くと、遠くに列車の灯りが見えた。その気配に急いで車を降り、撮影準備を整える。


蒼い風が吹いてきた」~ F10・SS1/500・ISO200 ~


車両は15:28頃通過の上り団体臨時列車 びゅうコースター風っこ。四月と五月の週末に運行された風っこ 只見線満喫号と同車両だが、この日は道の駅「奥会津かねやま」で開催された”春の奥会津ごっつおまつり”に合わせ、会津若松〜会津中川間を往復する一日限りの団体臨時列車として運行された。


やって来た風っこは、まるで蒼い風を運んできたかのような清々しい色彩を纏い、周囲の景観に溶け込んでいた。それは水田への映り込みだけが全てではなく、この調和こそが美しいのだと思わせてくれる。尚、急いでいたため動画は撮れなかった。


空もしづかに流るころ」~ F10・SS1/400・ISO320 ~


車両は17:30頃通過の下り431D。会津川口駅の始発便であった422Dは、会津川口駅と会津若松駅を二往復しながら最後は431Dとして小出駅(21:26着)に向かう。これらの運用車両番号はKY303・KY307、一日の中で最も長い運行距離になる。そんなことを思いながら、夜を駆け抜けて行く姿に郷愁感が募る。


田んぼの水面は此処ではこれで良かったように思う。中途半端な写り込みよりも、この色合いと明暗には、この波紋でなくてはならなかった気がする。


最後は先週と同様に、会津若松市北会津町西後庵へ向かった。まず田んぼの様子を確認すると、まだ田植えは行われていなかった。風は収まらず、この日の予定通り線路を挟んだ南側に限定して撮影することにした。この画像は17:58頃通過の下り433D。


蛙鳴き夜がそろりと降りてくる #2」~ F7.1・SS1/400・ISO800 ~


車両は18:46頃通過の上り432D。写り込みは一部を残しつつ波紋が立っている。また午後から現れた雲に変わり、今度は低い位置の雲が邪魔になるなど、取り敢えずメインブログには載せるものの、決して満足の行く内容にはならなかった。


おそらく来週には田植えが済んでいると思うが、その様子でも撮影を行うか否か、何れにせよ先述したように長い間悩まされていた風がどうなるか、それが一番の問題だったりする。


今回の紀行は天候に翻弄されながらも、その不安定さ故に得られた偶然の景色が随所に宿っていたように思う。写り込み、波紋、雲の高さなど、どれも私の意図を越えて現れ、奥会津という土地がその日だけの表情を見せてくれた証のようだった。


来週は田植えが進み、また違う水面の質感が現れる頃。風がどう吹くかは読めないけれど、その不確かさこそが、奥会津を撮る愉しみのひとつなのだと感じさせられる。そして次の一枚がどんな気配を纏うのか、静かに楽しみにしている。


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