只見線、彼岸を過ぐる風の中で

M.Hermitage

19日(土)、「暑さ寒さも彼岸まで」と云われるが、今秋は雨の日が続き、涼しいを通り越して肌寒い日が多い。思えば夏も雨が多く、今も庭先の水溜まりはずっと絶えることがない。

さて、この日も深夜から奥会津に向かうが、最初の目的は先々週辺りから様子を窺っていた、河沼郡柳津町大字細八字大巻甲のソバ畑となり、金山町や三島町はその後に車を進めることになる。因みに国道252号沿いから見えるソバ畑は、既に以前から咲き揃っていた。


雀らの声も硬うはなりました」~ F10・SS1/160・ISO400 ~


車両は06:27通過の上り422D。毎秋、彼岸の頃になると訪れるこの場所。その度にソバの作付けというのか、その面積や形状の違いに気付かされる。今年は昨年と比べるとソバの背丈がやや低く感じられ、線路際までは植えられていないようだった。つまり、同じように見える景観でも、立ち位置や画角は毎年少しずつ異なっている。


所でスズメが減少し、その鳴き声を耳にする機会も少なくなった。特に季節の移ろいとともに空気の質が変わる今朝などは、スズメはもとより、他の鳥の声も耳に届かず、叢では秋の虫が漫ろに鳴いていた。車両の通過を待っていると、奥の山陰から煙が立ち上っているのが見えた。そう云えば、昨年も同じ光景を目にしたような気もするが、もしかすると今もかまどを使っている家があるのかも知れない。


柳津町を後にし、奥会津へ向かう。流石にこれだけ冷え込めば川霧の姿はなく、シンと静まり返った週末の朝だった。画像は定期的に撮り続けている、大沼郡金山町大字横田字山根の線路沿いに建つ旧家。列車の通過まで時間はあまりなかったが、車両を置くポイントとなる丸印付近の雑草を刈り、撮影の準備を整えて待機した。


秋涼の朝」~ F10・SS1/400・ISO200 ~


車両は07:38通過の上り426D。タイトルのように涼しい朝ではあったが、草刈りをしたお陰で少し汗ばみ、上着を脱いで列車を待つ。考えてみれば、この立ち位置で小出からの始発便を撮るのは初めてかも知れない。夏の陽射しのような強さやギラつきはなく、柔らかな朝の光には、思わずハッとするような美しさがあった。赤い屋根の旧家も、収穫期を迎えた田も、その穏やかな光に包まれ、いつも見慣れた風景でありながら、どこか新鮮に感じられた。


因みに先週撮影した左端の田んぼは、既に稲刈りが終わっていた。今秋の歩みは例年より早いのか、気が付けば季節がひと足先に進んでいるようだった。そして線路沿いに立っての撮影は、列車の振動と風圧を直に感じることが出来、また違った感覚がある。


場所を変えカメラを東側へ向ける。車両は08:40通過の下り423D。当初は横構図で撮るつもりだったが、朝日を受けて輝く雲を取り込もうと考え、列車が通過する間際になって縦構図へ変更した。併し結果はご覧の通りである。思い付きで構図を変えることは、時に新鮮な結果を生むが、この日は洞察不足がそのまま写真に表れてしまったものの、この一角の田んぼは周囲より刈り取りが遅く、チャンスはまだ残っているかも知れない。

次は大沼郡金山町大字大志字古屋敷から、上画像の中川集落を撮る予定であったが、現地で様子を確認すると、思い描いていた光線状態や見え方とは少し異なっていたため、予定を変更して下画像の百代沢橋梁へカメラを向ける。


森の脈動」~ F10・SS1/400・ISO200 ~


車両は09:39通過の下り425D。そう云えばこの百代沢橋梁を撮るのはいつ以来だろう。足元には相変わらず草木が伸び、見通しを確保するにもひと苦労する。それでも、木々の隙間から見下ろす景観は少しずつ姿を変えながら、この地ならではの静かな時間の流れは昔と変わらないように感じられた。


所で山中には甘い香りが漂っていた。どこか藤の花を思わせるような匂いで、風向きが変わる度にふわりと鼻先をかすめていく。最初は近くに何か花が咲いているのかと思ったが、それらしい姿は見当たらない。


AIで調べてみると、カツラの黄葉や落葉が発する香りである可能性が高いとのことだった。カツラは秋になると、砂糖菓子を焦がしたような甘く香ばしい匂いを漂わせることがあり、人によってはカラメルや綿菓子、或いは藤の花の甘さに似ていると感じることもあるという。


午後からは再び横田方面へ戻る。陽射しが強くなり、撮影場所を思案した結果、大沼郡金山町大字滝沢字新田の只見川近くに立った。車両は14:56通過の上り430D。これまでにも何度か撮っている場所だが、広がる田んぼと集落、背後に連なる山並みと、それらの要素を画面の中で上手く結び付けることが難しく、その特徴を捉え切れずに思うような内容にならない。

続いて大沼郡金山町大字横田字上積田で撮影を行う。当初は東側へカメラを向け、矢印で示した会津横田駅方向からやって来る列車を捉えるつもりでいた。併し光の条件が良くなく、しばらく空や山際の様子を眺めた末、西側を向いての撮影へ切り替えることにした。


黄昏のBegin」~ F10・SS1/400・ISO200 ~


車両は15:53通過の下り427D。当初の構成とは異なり、結果的には後追いでの撮影となったが、黄昏へ向かう列車の後ろ姿には、どこか物語を感じさせるものがあった。そんな思いから、タイトルには“始まり”を意味する「Begin」という言葉を添えてみた。列車はこの先、県境を越えて小出を目指す。その頃にはどのような景色が待っているのだろうか。そして車内の乗客は何処へ向かい、どのような時間を過ごすのだろう。そんな他愛もない想像が頭を過った。


黄金色に色付いた田んぼは、午後の柔らかな光を受けて静かに揺れていた。刈り取りを待つ稲穂の上には秋の空が広がり、朝には感じられなかった穏やかな夕刻の気配が辺りを包み込んでいる。列車が通り過ぎた後も暫くその場に佇み、移ろう光の色を眺めていた。


日の入りの時刻は今月初めと比べて20分ほど早くなった。つい先日まで長く感じていた一日も、いつの間にか終わりを急ぐようになり、この427Dを最後に帰路へ就くことにした。朝の柳津のソバ畑から始まり、横田の旧家や百代沢橋梁、そして実りの色を増した田園風景まで巡った一日だった。森の中に漂うカツラの甘い香りや、収穫を迎えた田んぼの様子など、季節の移ろいを随所に感じることができた。撮影の成果だけを見れば、反省点も少なくない。併し、気が付けば秋は静かに歩みを進めていた。


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