楢山節考 (1958年公開版)

監督 木下惠介、出演 田中絹代、高橋貞二ほかによる1958年公開の「楢山節考」。この作品から長編映画としては初めてのカラー作品となった。

「東西、東西、このところご覧にいれまするは本朝姥捨ての伝説より、楢山節考…」と、黒子の口上から幕が開くこの映画、ラストのSLが走る現代の景色以外は屋内のセットになる。そのセットたるやかなり手が込んでおり、家屋や楢山の風景などなど良く出来たジオラマを見ているような錯覚に陥る。
セットなので開放されたような清々とした感じはないのだが、却って寒村特有の閉塞感を表現しているように思う。またセット特有の演出といえる場面転換での振落しや引道具、そして心情に合わせて全体を赤いライトで表現するなど、歌舞伎の早替わり・表現手段が随所に見受けられる。更に物語りを通して長唄や浄瑠璃をBGMとして使うことにより、尚一層独特の世界観を演出する。


ストーリーは今更といった感じだが、1983年の映画で左とん平が演じた辰平の弟である利助の登場はない。その1983年の映画ではおりんを演じる坂本スミ子が前歯を抜いたが、この映画に於いても田中絹代が前歯を抜き正に身体を張った女優魂を感じる。出演者として初代並びに二代目黄門様がちょっと出ています。
話しは変わるが1965年に「怪談」という映画がある。この映画も「楢山節考」と同様にオールセットなのだが、背景の画やライティングなどなど当時の映画の色彩感は特出するものがあり、個人的に良い意味での毒々しさに惹かれる。
因みに1958年公開の「楢山節考」は2012年に木下恵介生誕100年を記念しデジタル修復が行われ、デジタルリマスター版でDVDが発売された。


さて楢山様に到着後は一切言葉を交わしてはならず、おりんは手の動きで心情を伝えようとするが、この仕草が口数が少なくなった最近の私の老いた母と同じであり、何処となく身につまされる今日この頃。
などと言いながら、ヘルニア持ちの私は老人を背負って山道を長時間歩くことはちょっと無理。つまりはいつまで経っても役に立たない親不孝息子だったりする。